店舗開発担当者に共通の「不満」と対策|開発を“分かっていない!”
仕事柄、テナントとして大型の商業施設や路面、ロードサイドに店舗を展開する企業の店舗開発担当の方々とお話する機会が多いのですが、ほぼ全員に共通する「不満」を一言で表わせば、経営者も含めた社内のメンバーが、(店舗)開発を“分かっていない”ということのようです。
私自身もそのような不満を同僚と飲みながらもらしていた時期がありました。
そうした状況に対して、店舗開発という業務をビジネスパーソンが理解する助けとなるような内容の本を現在執筆中です。それに関連して、そもそもなぜ店舗開発という仕事が広く理解されていないのか?について考えてみたいと思います。
書店等でビジネスや店舗経営に関する本をめくってみても、店舗開発という用語を詳しく説明しているものはほとんど見当たりません。また、大学等の授業でも店舗開発・出店戦略を直接的に扱うものはほぼ皆無といえます。
私自身も実社会に出て関わるまでは店舗開発という仕事を知りませんでした。学生時代までは、“店舗”はあって当たり前で、開けようと思えば簡単に開けられるものだと思っていました。思い返せば、同時期に講師のアルバイトをしていた学習塾が教室を増やし、学生を獲得するために熾烈な競争をしていましたが、新たな教室が開講するという知らせを聞いても、「また新しい教室が開くのか」といった程度の印象しかなく、ましてや店舗開発という言葉など頭をよぎったこともありませんでした。
世の中に出て、店舗開発という仕事を知ることができたのは非常に運が良かったと思っていますが、それはつまり、店舗開発に携わったことのない多くの人は、店舗開発という仕事を知らずにここまで生きてきてしまっている、ということです。
その結果、“店舗は開けたい時に、開けたい場所に開けられる”、“家を借りるのと同じような感覚で、同じ業種のトップ企業が出店しているような場所に自社も出店できる”、といった考えの持ち主が多くなってしまっているのだと思います。
そうした人の多くは、“店舗とその店舗のお客様”との関係を良くする業務に注力しており、店舗が存在すること、そして、お客様が実際に来店し店内にいることを前提として、店内環境に属する要素を管理する立場の方々です。
では、そうした立場の人の業務と、店舗開発の担当者の業務とは何が違うのでしょう?
大雑把にいうと2つの違いがあると思います。
1つは“時間的な視点”です。店内環境に属する要素に関して管理する立場の人は、目先のお客様に的確に対応することを優先的に考えます。天気予報や近隣でのイベント等を考えに入れながら日々の業務の計画を立てます。それに対して店舗開発の担当者は、少なくとも1年以上先の将来の会社の姿の実現のために動いています。どちらが良い悪いを意味しているわけではありませんが、前者は“短期的”な、後者は“長期的”な意思決定・判断に関連しています。
両者のうち、小売・サービス業の経営に関する知見は“前者”を中心に蓄積され、後者に関するものは別個に扱われてきたと言えます。その方法は店舗を大型化したり、品揃えやテナントミックスを自由に変更したりすることが可能な“大箱で、自ら立地創造が可能な小売業”には有効であったように思われます。しかし、そうではない“小型店舗を多数出店する企業”にとってもそれが同様に有効であるとは限らないのです。実際の開店は遠い先の話であったとしても、開店の準備に関する判断は“店舗の目先のお客さんへの対応”と同様にスピードが求められており、店舗運営と店舗開発はいわば“同時並行”で進めなければならないはずなのですが、普通の人はどうしても“別個”に考えてしまうのです。たまたまその時に店舗の業績が良くないと新規出店に後ろ向きになったり、いつでも開けられるという感覚で今は時期が悪い(云々)といった意見を述べたり・・・そうした食い違いが“分かっていない”の一因です。
2つ目は“接する相手”です。店舗開発担当者は、日常的に“店舗のお客様”と直に接することはほとんどありませんが、“別のお客様”と日々接しています。別のお客様とは、社外にいて自社に出店の機会を提供してくれる可能性のある商業施設やディベロッパーなどの企業の担当者です。店舗のお客様に不快な思いをさせると客離れが生じるように、店舗開発担当者も敵に回すと出店機会が奪われ、物件が他社に行ってしまう可能性のある“お客様”を相手に仕事をしています。
店舗開発という仕事は、“社外のシビアな目による自社の評価や勢いのようなものを真っ先に知ることができる仕事”だといって良いと思います。昨今、環境変化のスピードは以前に比べて遥かに速くなり、数年前に勢いがあったブランドがそれを維持し続けるためには大変な努力を要します。自社の新規性、希少性などが低下した中で、以前と同じことをやっていただけでは自社が希望するようなタイプの立地への出店機会は獲得できなくなっている、といったことを社内で最初に痛感させられるのが店舗開発担当者です。しかし、会社に戻り、そんな環境変化に気付かない人達が、出店に関して“夢のようなこと”を言っているのを耳にすると、思わず“分かってない”と言いたくなるのです。
しかし、それを嘆いているだけでは、この“常態”は何も変わらないのです。そろそろ考え方を変えなければなりません。
最近、商業施設に関してよく言われているのは、“どこに行っても同じような店ばかり”ということです。それが意味することの一つには、日本で全国区になったブランドのメンバー(プレーヤー)が長いあいだ大きくは変わっていないことがあるように思います(この点については後日、単一業態で500店舗を超えた企業の共通点というタイトルで触れたいと思います)。毎年多くのプレーヤーが1号店を開店するのも関わらずです。
その原因はの一端は、店舗開発に関する今の“常態”が変わらないことにあると思います。
店舗開発、出店戦略の本質を理解する人の数を増やす努力が必要な時期に来ているのではないでしょうか?
関連動画(店舗開発という仕事チャンネルより)
知られざる「店舗開発という仕事」の内容をこの道25年の「店舗開発実務講座」講師が解説。業務フロー、開発担当者の心構えや、業務効率化の留意点などもお話します。
- 00:00 簡単に言うと店舗を開店させる仕事、なのですが…
- 00:36 店舗開発という言葉を初めて知ったのはいつですか?
- 01:03 世の中や社内で正しく理解・認識されていない業務
- 01:16 よくある誤解:店は容易に、開けたいときに、開けたいところに開く?
- 01:37 店舗が“売れない”と開発のせいにされ、売れても褒められない
- 02:00 なぜそのような誤解が生まれてしまうのか?→小売・サービス業の知識は「目先の顧客に対応することや店内環境に関するもの」が中心。店舗はあって当たり前、店に客がいて当たり前、が前提となっている。
- 03:05 しかし現実は?→当たり前ではない。立地によりお客様の数やタイプは異なる。出店判断は非常に難しい。
- 4:36 店舗を開けるのは、家を借りるのとは違う!→1.売れて利益を出し続ける店舗を開ける>企業成長が必要2.売れる立地には限りがある>競争>良い立地を巡る戦争である3.現況営業中もザラである>“空いている場所を探す”はバツ4.会社の数ヶ月から数年先の状態を考える必要がある5.立地の恐怖(多額の設備投資が必要)>一度決めると短期的に変更することが困難、開業後の売上・賃料・減価償却などの固定的にかかる費用が決まる>店舗PLに重大な影響
- 10:12 店舗開発の大まかな業務フロー:1.物件提案(物件情報の収集→一時判断→物件調査・評価→売上予測→物件提案)2.社内調整(契約条件交渉⇔担当者⇔社内調整)→出店条件の合意3.社内合意(会議→社内承認→契約締結)
- 12:17 信頼される店舗開発部門になるために:出店のための“きちんとした”事前説明→売上予測、出店計画/不採算店舗を造らない/透明性の高い店舗開発行動→不意打ち的な提案を避ける
- 14:35 店舗開発の業務フローをスムーズにするために:経営計画→出店戦略・市場計画・エリア戦略の全社的共有→物件開発・立地選定
- 15:33 業務フローの難所:肝心な「出店戦略」はどう考えたらいいのか?
- 16:37 店舗開発の業務フローの前後に必要となること:(前)出店戦略→市場計画→エリア計画(後)施工→営業部門への引渡→開店後レビュー
- 18:07 本日のまとめ