店舗網の“健康状態”を確認する方法
物件判断における「重要な質問」~新規出店で変化するものとは?~
チェーン企業は、新たに店舗を出店することにより、店舗数を増やすと同時に新たな売上を獲得します。
新規出店のため物件を判断する際に、個々の物件の立地や売上予測については入念なチェックがなされることと思われますが、もう一つの「重要な質問」がなされるべきと思われてなりせん。今回はその「重要な質問」についてお話したいと思います。(関連する論文がまもなく出版される本に掲載されるのですが、その一部を先行してお話しさせていただきます。)
繰り返しになりますが、チェーン企業は、1つ1つ店舗を新たに出店することで店舗数と企業売上を増加させるわけですが、それと同時に“あるもの”を変化させています。
新たに店舗を出店することで、変化するものとは何でしょう?
これは非常に重要な内容なので、まずはじっくり考えてみてください。
店舗網形状への影響という視点
“新たに店舗を出店することで、変化するものとは何でしょう?”という質問をしました。その解説をしたいと思います。ただ、この視点は、経営者や店舗開発部門の管理職レベルの方に必要な視点だと思われますので、そのあたりをお含みおきいただき聴いていただきたいと思います。
新たに店舗を出店することで変化するもの、それは“店舗網の形状”です。個々の店舗が形成するチェーン全体としての店舗網の地理的な形状です。
個々の物件が、立地や売上予測などの評価基準を満たすという理由で出店したとしても、それぞれの物件がもたらす“店舗網の形状”への影響の仕方は大きく異なる可能性があります。局地的には最適な出店であっても、それが店舗網(チェーン全体)としては最適ではないかもしれないのです。
極端な例ですが、1号店を東京都心の好立地に開業した後、2号店をその都市の一等地に開業したとしても、その都市が都心から遠く離れた人口20万人程度の都市であった場合、店舗網としては健全と言えるのだろうか、ということです。企業ブランドのイメージが拡散、低下するのみならず、管理コストも上昇し、その費用対効果も悪化することが予想されます。
“個々の物件が諸条件をクリアしているというだけで出店を判断することは、企業全体に負の影響をもたらす可能性がある”と考えることは有意義なことと思われます。
よって、新規出店のための物件判断の際に問いかけられるべき「重要な質問」とは、“その出店の店舗網全体にとっての意義は何か?”ということです。
私自身、これまで複数の企業で非常に多くの物件判断に関わってきましたが、その経験を振り返っても、店舗数を順調に増やして全国展開する企業と、途中で成長を止めてしまう企業の違いが生じる原因の一つとして、この問いかけがあるかないかの違いがあるように思えてなりません。また、出店計画においてこの問いかけがなかったことにより、ある程度店舗数がある企業の場合でも、気が付けば店舗網が非効率になっていた、ということがあるのではないか、と思えてなりません。
このあたりを引き続きお話ししたいと思います。また、現在、現実的に判断を迫られている案件がおありの管理職の方や、これから社内に提案しようとしている案件を抱えている方にも、“その出店が企業全体にとってどういう役割があるのか?”ということをぜひ考えてみていただきたいと思います。
「新規出店の7つの根拠」
ここでは、「新規出店の7つの根拠」を示します。
(1) 自社が出店しない訳にはいかない場所
- 東京圏、名古屋、大阪、福岡など主要都市
- 大型SC開発計画
- 新規、再開発計画 など
(2) 未出店エリア(エリア1号店)
(3) 「エリア内の既存店Age(年齢)」の平均を全国平均の水準に保つため
- 出店履歴から機械的に配置する。特定のエリアの新規出店が長期間停まっている場合、新規出店の優先順位を上げるべきです。
(4) 地方都市で「10万人あたり店舗数」が全国平均に達していないため
- エリア間の差をなくす意味で出店が必要な場合があります。
(5) 競合の店舗数が自社の店舗数を上回るエリアへの出店
(6) ポテンシャルが大きく競合の出店を阻止しドミナントを形成する
(7) 既存店の効率が悪く改善の見込みの無い店舗のリロケーション
これらを“店舗網の管理”にどのように応用するべきかを考えていきたいと思います。
店舗網の健康状態を確認する具体的な方法についてお話していきます。『コメダ珈琲店』のケースで練習してみましょう。
店舗網の健康状態を確認する方法~『コメダ珈琲店』のケース~〔練習〕
引き続き“店舗網の管理”について考えます。ここでは、店舗網を捉えるため、以前も取り上げたコメダ珈琲店を例に練習したいと思います。
方法は簡単です。
1.“コメダ珈琲”の都道府県別の店舗数が分かるエクセルの表を作成してください。
(1)コメダ珈琲のホームページの店舗検索(https://www.komeda.co.jp/search/index.html)を利用します。
(2)各都道府県をクリックすると、何店舗あるかが表示されるので、その数字を入力します。
次回以降のケーススタディーでは、エクセル上でいくつかの分析をしていただきますので、ご自身で実際に作成されることをお勧めします。念のため、私が作成したのものを掲載しておきます。
この出店状況を皆さんはどう評価されますか?しばらく考えてみてください。
店舗網の健康状態を確認する方法~『コメダ珈琲店』のケース~〔評価〕
コメダ珈琲店の都道府県別店舗数を確認しました。上の表からコメダ珈琲店の店舗網について説明してください。
愛知県が地盤のブランドのため、愛知県を中心とする中京圏に店舗が多いことが分かります。また、39都道府県に出店済みで全国拡大を進めていることが分かります。
このように、店舗網の説明をする場合には、どこに店舗が多いか、展開している地理的な範囲はどのくらい広がっているかをまず確認します。が、重要なのはその後なのです。
大型の商業施設は各都道府県に1~2店舗で十分なケースが多いですが、小型の店舗を多数出店する、当ブログが主な対象とするようなリテーラーの場合は、大量の数の店舗を出店することで市場をカバーしようとするものです。従って、特有な観察ポイントがあるのです。
それはさておき、皆さんは、この店舗網の状況から、コメダ珈琲店の今後をどう予想されますか?
当ブログの予想は、「コメダ珈琲店は、目標とする1000店舗はいずれ達成するものの、企業全体として獲得する収益はそれほど上がらない」です。
それはなぜでしょう?
出店の基本は何か? ~店舗網の健康な状態について~
チェーン店の出店の基本、それは市場規模に相応しい数の店舗を出店するということです。ではどのくらいの数の店舗を出店すべきか?
弊社が実施したリテールブランド浸透度調査から読み取れたことは、認知度が90%を超えるブランドは、基本的に300店以上の店舗を首都圏に出店しているということでした。
では全部で600店以上を出店している、コメダ珈琲店はどうだったか?
その認知度は80%台半ばに留まりました。その理由は、1都3県の店舗数がまだ300店に満たないためです。中京圏では優に90%を超えると推測できますが、関東圏ではそうはなっていないのです。
当ブログでは、認知度が90%を超えるブランドは市場に定着したブランド、つまり、「定番ブランド」になったと定義したいと思います。そして、それは首都圏1都3県の場合、300店を開店することで達成できることが独自調査より明らかになりました。
首都圏1都3県に300店。これは、人口12万人あたり1店舗を意味します。この数字は、1都3県の人口総数3600万人を300で割って得られます。首都圏で300店、日本全国では(ざっくりとした数字ですが)総人口を12万で割った約1000店となります。
以上をまとめると、日本市場での理にかなった出店方法は、“総店舗数1000店で全国展開する場合、首都圏に300店、残り700店を首都圏以外で、人口12万人に1店舗の割合で出店している”状態となります。
この評価基準に照らしてコメダ珈琲の店舗網をみてみるとどのようなことが言えるか?ということを、ぜひ評価してみてください。