チェーン店の「出店可能な店舗数」の算出方法
「出店可能な店舗数」を3段階で求める方法
チェーン店の場合、ある市場で何店舗を出店できるかが議論されることがあります。この場合の市場は新宿、池袋などの駅を中心とした市場であったり、○○市、○○区などの自治体単位の市場であったり、そのスケールは様々ですが、考え方の基本は同じです。
出店可能な店舗数は3段階で求めます。
Step1.市場ポテンシャル(その市場で自社が期待できる売上の合計)の推定
これは総人口をベースにした次の掛け算で求めます。
市場ポテンシャル=市場内の総人口×利用者比率×客単価×利用頻度×自社のシェア
総人口は、総務省のデータやGISシステム等で入手できます。
利用者比率は、自社の提供するサービスを利用する人の比率(%)です。例えば、飲食店なら外食する人、ス
ポーツ用品店であればスポーツをする人、の人口に占める比率です。これは公表されているデータがあればそれを用いますが、情報を組み合わせて社内で大まかに推定する必要もあるかもしれません。
客単価は一回の利用でお客さんが支払う金額の平均で、利用頻度は一週間、一ヵ月などの期間に店舗を利用する頻度で、業種や業態で設定されている金額や数値があればそれらを用います。
ここまでが、その市場で自社の提供する商品やサービスが消費される金額の合計です。
それに自社のシェアを掛けることで、自社がその市場で見込める売上が推定できます。市場シェアは、店舗数のシェアや企業としての目標値を用いることが多いようです。
ちなみに、
市場ポテンシャル-その市場における既存店の合計売上=自社の残存ポテンシャル
となります。
Step2. 数字の上で出店可能な店舗数の算出
Step1で推計した市場ポテンシャルを自社の店舗の平均売上で割れば、数字の上で出店可能な店舗数が算出できます。
出店可能な店舗数=市場ポテンシャル/店舗の平均売上
ただし、この出店可能な店舗数は、あくまでも数字の上での話で、想像よりも高い数字になることが多いです。
そんなに出せるのか?という印象を持たれることが多いものです。
店舗間の売上のバラツキが大きい企業の場合は特にその傾向が強くなります。
そこで・・・
Step3. 実現可能性の検証
その市場において自社が現実的に出店可能な立地数と照合します。数字の上で出店可能な数字よりも現実的な立地数が極端に少ない場合は、より小さい商圏に対応可能な業態を持たない場合、その市場における機会損失、つまり潜在的な売上を顕在化できない状態、を覚悟する必要があります。
ちなみに、
実現可能な店舗数-その市場における既存店数の合計=追加出店可能な店舗数
となります。
目標店舗数を地域に配分する方法
「あるエリアに何店舗出店できるか?」を考える際に、最初に決めるべきことは何でしょう?
全国で最終的に何店舗を出店するかという目標店舗数です。
この「全国での目標店舗数」が全社的に共有されていない場合、「あるエリアに何店舗出店できるか?」という問題は部署や人により考え方が異なり、結論になかなかたどり着かない場合が生じます。
「全国での目標店舗数」を地域にブレイクダウンしていくことにより、最終的に各エリアに何店舗出店できるかを算出していきます。
ここでは例として、1000店舗を全国に展開するケースを考えます。
日本全国を地域市場に分割する際の第一歩は「8つの地方」に分けることです。徐々にブレイクダウンすることが大切です。
下の図では、経営目標の下に北海道から九州までの8つの地方が並んでいます。皆さんなら1000店舗を8つの地方にどのように配分しますか?
( )の中に入る数字を考えてみてください。
各地方への1000店舗の配分はどのようになりましたか?
この段階では、各地方に居住する人のほとんどはその地方の中で生活を完結していると仮定します(旅行や出張等で地方間を移動する人もいますが、それは後の段階で考慮します)。
そして、市場規模を単純に「人口」で表し、それに応じて総店舗数を配分することを試みます。
人口を調べる場合、「住民基本台帳人口」という用語で検索すると、統計局ホームページや総務省ホームページなどで住民基本台帳人口が公表されていることが確認できます。エクセルのデータもダウンロードできるようになっています。しかも無料です。折角、国が税金を使って用意しているものですので積極的に活用したいものです。ここでは、e-Statにある2015年7月1日に公表されたデータを使ってみたいと思います。
【表1】は、2015年1月1日時点の各地方の住民基本台帳人口とその比率(%)、そして1000店舗を人口の比率に応じて各地方に配分した数字を示しています。
【表1】
地方 | 人口 | % | 店舗数 |
全国 | 128,226,483 | 100.0 | 1000 |
北海道 | 5,431,658 | 4.2 | 42 |
東北 | 9,145,132 | 7.1 | 71 |
関東 | 42,971,646 | 33.5 | 335 |
中部 | 21,754,115 | 17.0 | 170 |
近畿 | 22,767,346 | 17.8 | 178 |
中国 | 7,529,970 | 5.9 | 59 |
四国 | 3,955,626 | 3.1 | 31 |
九州 | 14,670,990 | 11.4 | 114 |
前回の図に数字を反映させました。
皆さんの数字と比較していかがでしたか?
次の段階では、それぞれの地方(北海道を除く)を下位の都道府県レベルブレイクダウンしていきます。
目標店舗数を都道府県レベルへブレイクダウンする
次の段階では、それぞれの地方(北海道を除く)を下位の都道府県レベルブレイクダウンするのですが、地方と異なり都道府県の場合は、都道府県の間を通勤や買い物等で移動する人もいるため工夫が必要になります。
順当に考えれば都道府県ごとに配分することになるのですが、都道府県や更にその下位の市区町村のレベルになると、行政区域と消費者の地理的な移動の範囲が食い違うことが多いため、単純に人口の比率で都道府県別、市区町村別に目標店舗数を配分する方法は現実的ではありません。
例えば、前回、三重県を近畿地方に含めましたが、三重県から名古屋方面に通勤・通学、買い物等で日常的に移動される方も多く、中部地方に含めた方が現実的です。
消費者行動の実情に即した形で、マーケットの区分の方法は柔軟に考えるべきです。
いずれにせよ重要なことは、
ブレイクダウンは急いで小さい単位に落とし込まない
ということです。
地方を更にブレイクダウンする際も、地方と都道府県の間のレベルを考えるべきで、そこで用いられるのが「商勢圏」という概念です。
下の図は、経営目標と個々の物件の関係を示したものです。
全社的な目標出店数が決定されると、その数値を地域、都道府県、自治体、場合によってはより小さいエリア等へ落とし込む必要があります。
この手続きを経ない場合、現場からの疑問にロジカルに答えることが難しくなります。