物件を探し始める前に決めておくべきこと~物件の基本条件の導き出し方~
その店でいくら売るか?
仮に飲食店の開店を検討しているとしましょう。
物件を探し始める前に、まず、開業後にどうやって継続的に利益を出すかという利益計画を立てる必要があります。そこから、利益計画を達成するためには、賃料はいくらぐらいまで払えるのか、店舗の広さ、席数や駐車場台数はどのぐらい必要なのか、といった物件の基本的な条件を導き出すことができます。
利益=売上高-費用です。このうち賃料は、売上高が仮に0円でも毎月一定額が発生する怖い費用で、固定費といいます。固定費には他にも、給料、減価償却費等が含まれます。販売数量に応じて変化する費用は変動費といって、主に売上原価が含まれます。以上の費用合計に利益を足すことで、必要な売上高が決まります。
<費用構造> 売上高:100%とした時に、各費用項目が占める%はどの程度か?
売上高: 100%
- 原価:( )%
- 賃料:( )%
- 給料:( )%
- 利益:( )%
仮に、賃料月額60万円の物件に出店するとします。
原価は、一店舗で営業する場合は販売数量も少ないため高くなるので、40%前後と仮定します。給料は、後で調整できますが、20%と仮定してみます。残りは40%ですが、水道光熱費や保険料などの他の費用もかかることを考えると、賃料は15%としてみます。60万円が15%なので、60万円÷15%となります。つまり、賃料月額60万円の店舗で利益を出すためには、毎月400万円以上売る必要がある、という計算になります。
次は、その売上高が現実的に達成できるかを検討します。売上高=客数×客単価×来店頻度です。2人のお客様が1000円ずつ支払ってリピートしなかった場合の売上高は2000円です。1人のお客様が500円しか支払わなかったが4回リピート来店した場合も売上高は2000円です。このように、金額は同じでも、売上高のつくり方は異なります。
客数と来店頻度は市場によって変わりますが、客単価は店側で決めることができます。客単価を仮に500円と想定すると、毎月400万円売るためには、400万円÷500円=8000人の顧客を毎月獲得する必要があります。週1日休むとして単純に月25日で割ると、1日当たり平均顧客数は320人となります。これが実現可能な店舗のキャパシティと、その店舗が立地する地域市場の規模や競争環境を考える必要があります。市場とは、来店する可能性のある人の数だと考えてください。
必要な店舗のキャパシティは?
では、1日平均320人の顧客を実現するには、どのぐらいの店舗のキャパシティが必要になるのでしょうか。
顧客数=座席数×平均稼働率×回転数です。稼働率とは、実際にお客様に利用されている座席数です。例えば4人掛けのテーブルを1人のお客様だけが利用しているとすると、稼働率は25%です。飲食店の場合、満員の飛行機とは違って、全ての客席がお客様で埋まることは考えづらいため、稼働率を使って実質的に売上に貢献する席数を考える必要があります。
回転数は、一つの座席を一日に何人のお客さんが利用するかを表す数字です。仮に一日12時間営業とすれば、30分に一回、コンスタントにお客様が入れ替わる座席は、12時間÷30分=24人分の売上を獲得してくれます。逆に、長居され3時間に一回しかお客様が入れ替わらない場合は、12時間÷3=4人分の売上しか獲得してくれないということになります。つまり、お客様がゆっくりとくつろげる店にするということは、回転数が下がるということを意味します。
仮に稼働率75%、回転数20回と想定した場合、1日320人の顧客を実現するためには、24席必要という計算になります。座席数(24席)×平均稼働率(0.75)×回転数(20回)=顧客数(320人)、ということです。
実際に開店してみたら、もっと稼働率や回転率が高くなる可能性もあるのでは?と思われるかもしれません。しかし、前述したように、いったん開店してしまえば、たとえ売上高が見込みより低くても、一定額の固定費が毎月発生します。利益計画の算出根拠となる稼働率や回転数は保守的に(控えめに)見積もる必要があり、希望的観測や楽観的に判断をすることは危険です。
必要な駐車場台数は?
自動車来店を期待する業態を出店する場合、店内の座席数と駐車場台数はバラバラに考えてはいけません。お客様の自動車来店の比率が高いと見込まれる場合は尚更です。では、駐車場台数はどのように考えればよいのでしょうか。
極端な例で考えてみましょう。仮に、店内の座席数を30席にするとして、次の業態で駐車場台数はそれぞれ何台くらい必要だと思いますか?
① 喫茶店 ② 焼肉店 ③ ラーメン屋
考えるべきことは、お客さんの行動です。どのようにお客さんが店舗を利用するかということです。では想像しやすい「来店するグループの人数」という観点で考えてみましょう。
皆さんが喫茶店、焼肉店、ラーメン屋に行く状況を想像してみてください。喫茶店は1人か2人といった具合に、少ない人数で利用することが多いのではないでしょうか。あまり4-5人で利用する方は少ないと思われます。しかし焼肉店の場合はいかがですか?恐らく3人以上という方が多いのではないでしょうか。1人で行かれる方はかなり少ないと思われます。
以上の仮説が正しいとすると、喫茶店の来店するグループの人数の平均をざっくり1.5人とすれば、30÷1.5=20台となります。焼肉屋の場合、低めに見積もって3人とすれば、30÷3=10台となります。要は、来店するグループの人数と駐車場台数は反比例の関係にあるということです。
では、ラーメン屋はどうですか?1人でも行けるし、2人でも行けるし、4-5人のグループでも行けます。これはラーメン屋さんごとに標的とするお客さんをどのような人にするかによって異なります。例えば、私の大好きな横浜家系ラーメンであれば、来店人数は喫茶店のほうに近いと考えられます。焼肉屋なみの人数でラーメン屋に行くとしたら、「餃子の王将」のような系統のラーメン屋が好まれるのではないかと思います。ラーメン店のタイプによって、平均人数を喫茶店型と焼肉屋型のどちらに近いか考えましょう。