業務にすぐ役立つチェーン店新規出店「売上予測」入門+演習
業務にすぐ役立つチェーン店新規出店「売上予測」入門+演習
店舗売上予測の根拠は何か?
新規出店の判断の際には、諸経費に目標利益額を加えて必要とされる売上高を見積り、その金額が妥当かどうかを検証することにより、店舗の最終的な利益計画を確定します。
…と、文章でさらりと書けば簡単なことのように見えますが、社内のコンセンサスを得て、それを確定するに至るまでに、意外と多くの時間や労力を費やされている、ということはありませんか?
「開発部門での売上の予測金額とオペレーション部門の予測金額と間に乖離があり、なかなか合意が得られない。」「それに対して説得力のある説明をしたいが、なかなかそれができない。」、という方もいらっしゃると思われます。
そのような開発ご担当者の方向けに、本講座では、売上予測のプロセスや説明方法について、必要とされるデータや統計学で関連する用語も踏まえながら解説させていただきます。
数字は苦手だ、とおっしゃる方も多いと思いますが、分かりやすく、しかも業務ですぐに役立つように演習形式で説明するよう努めます。
なお、ここでは、既存店舗数が20店舗以上あるチェーンストアの場合を想定してお話しします。
まずは既存店売上データの整備と加工から始めましょう
新規出店の際の売上を予測するためには、既存店の日販や月商ではなく“12ヶ月移動平均”を分析する必要がある
まず、既存店売上データの整備と加工の演習から始めたいと思います。可能でしたら、皆さんの会社の店舗の、直近24か月分の月商データをエクセルファイルでご用意ください。
ここでは、ダミーの月商データをご用意しましたので、このデータをもとに説明を進めます。まずは、下のリンクをクリックすると開くダウンロードページから、演習用のエクセルファイル「12months_rolling_average_practice-FUKUTOKUSHA」をダウンロードしてください。
こちらをクリックしてダウンロード→ 12ヶ月移動平均演習用データ(Excelファイル)
エクセルファイルの「シート1」には、26店舗の20X1年1月から20X2年12月までの24ヶ月の月商データが示されています。
「シート2」では、20X1年1月から20X1年12月は空欄で、20X2年1月から20X2年12月まで数字が表示されています。これは、月商データの「直近12ヶ月の移動平均」を示しています。移動平均とは、直近12ヶ月の平均月商を月ごとに計算したものです。20X1年1月から20X1年12月は、直近12ヶ月分のデータが全て表示されているわけではないため、移動平均が空欄になっています。
【グラフ1】は、A店の20X2年1月から20X2年12月までの月商の推移を示しています。月によって、上がったり下がったり、細かく変動していることが窺えます。
【グラフ2】は同店・同時期の月商の直近12か月移動平均の推移が示されています。グラフ1と比べてだいぶ印象が異なり、20X2年5月から下降傾向にあることが読み取れます。
新規出店の際の売上を予測するためには、既存店の日販や月商ではなく“12ヶ月移動平均”を分析する必要があります。
まだ確認されたことがない方は、ぜひご自身の会社の店舗データでも確認してみてください。ダウンロードしていただいたファイルのシート2には関数が組み込まれていますので、シート1にご自身の会社の店舗月商を入力していただければ、自動的に移動平均が計算されます。よろしかったらご利用ください。
でも、なぜ12ヶ月移動平均を把握する必要があるのでしょう?
12ヶ月移動平均は店舗の“稼ぐ力”を表す
【グラフ2】(12ヶ月移動平均グラフ)で、数字が下降傾向になることを確認しました。
直近12ヶ月移動平均を12倍した値は何でしょう?
それは、店舗の年俸に相当します。言い換えれば、店舗の一年間の“稼ぐ力”です。グラフ2はそれが下降傾向にあることを意味しています。確かに、8月や11月の前年比の落ち込みが大きいことが月商データからも確認できます。
月商の推移を見るだけでは気づくことが難しい、店舗の“稼ぐ力”を月商の直近12カ月の移動平均のグラフは示してくれます。
日販や月商は、天候や突発的な要因、季節的な要因などの影響を受けます。店舗を運営する部署の担当者はそうした数字を細かく分析されているはずです。それに対して、店舗開発の担当者は、店舗売上の“短期的な変化を説明する要因以外の要因”を決定する立場にあります。そのためには、短期的に変化する要因や季節変動による影響が除去されている数字を分析する必要があり、それが直近12か月移動平均なのです。
“短期的な変化を説明する要因以外の要因”とは何でしょう?
これについてはこれまでもいくつかの要因についてご説明してきましたが、競合の影響が含まれます。近隣に競合店が出店した場合、店舗売上は影響を受ける可能性があります。また、自社の店舗を至近距離に出店する場合、売上の共食い(カニバリゼーション)が生じる可能性があります。こうした競合の影響を分析する際に、日販や月商の変化を観察すると短期的な要因との区別がつかず、誤った判断をする危険があります。この場合は、直近12ヶ月移動平均にどのような影響があったかを確認するべきなのです。
経験則上、競合の出店の後、12か月移動平均に5%以上の下落があった場合は競合の影響があったと言って良いでしょう。競合が出店した日に店舗売上が10%落ちたからといって、単純に10%の影響があったと言うのは感情的で間違った判断と言えます。
売上予測とは、そもそも何をすることなのか?
既存店舗の売上の傾向を把握し、それを新規物件の条件に当てはめて予測額を算出すること
それではここで、売上予測をするとは、そもそも何をすることなのかをお話しします。
結論から申しますと、
- 既存店舗の売上の傾向を把握し、
- それを新規物件の条件に当てはめて予測額を算出すること
を言います。
“予測”とは、根拠を示した上で具体的な数字で測るという意味です。偉い人の直感や経験則から「大体〇〇円くらいだろう」というのは“予想”です。“予測”は、外れてしまった場合にその原因が説明でき、今後の教訓を得ることができます。しかし“予想”はそれが困難です。予想ではなく説得力のある“予測”ができる人になりたいものです。
「1.既存店舗の売上の傾向を把握」する、とは?
図は、ダウンロードしていただいたエクセルファイルにある26店舗の20X2年12月の直近12ヶ月移動平均をA店からZ店まで順に並べたものです。9番目のI店が最も高く、18番目のR店が最も低い値を示しています。破線は26店舗の平均値(8,040,439円)を示しています。
26店舗ごとの点は、破線に乗っているものや破線に接近しているものもあれば、逆に、破線から遠く離れたものもあることが分かります。
最も遠く離れているのはどれでしょう?I店です。次に遠く離れているのはR店です。こうした店舗の売上の平均値からの“離れ具合”は店舗ごとに異なることが分かります。
“既存店の売上の傾向を把握する”とは、個々の店舗の“離れ具合”がなぜ生じるかを説明することです。全店舗分の“離れ具合”を合わせた値(注:厳密には違いますが)は大きな数になります。それは売上に影響する説明要因との関係を1つも考慮していないためです。個々の店舗の“離れ具合”がなぜ生じるかを説明する要因を1つずつ加味することにより、大きな数字を小さくしていくのです。
「2.それを新規物件の条件に当てはめて予測額を算出する」、とは?
売上予測をするとは、1.既存店舗の売上の傾向を把握し、2.それを新規物件の条件に当てはめて予測額を算出することである、とお話ししました。
「1.既存店舗の売上の傾向を把握する」とは、直近12ヶ月移動平均で把握した店舗売上が全店の平均売上のまわりにばらつきますが、各店舗の売上の全店平均からのばらつき(離れ具合)を、それがなぜ生じるかを説明する要因を1つずつ加味することにより、小さくしていくことでした。詳細は改めてお話ししますが、今はこのようなイメージを持っておいてください。
次に、「2.それを新規物件の条件に当てはめて予測額を算出する」ことのイメージをつかんでいただきたいと思います。具体的な方法は改めてとり上げますので、あくまでもアウトプットのイメージを確認してください。
結論から申しますと、1.で既存店舗の売上の傾向を把握した結果は、下記のような一本の数式(モデル)で示されます。
店舗売上=係数1×要因1+係数2×要因2+・・・+係数n×要因n+定数
売上を説明する要因がn個あったとして、既存店舗の売上とn個の各要因を示すデータとの関係を統計的に分析してn個の“係数”と“定数”を求めます。nは状況に応じて変化する数で、場合によっては1(つまり要因は1つ)としたり、3(つまり要因は3つ)としたり、自由に設定できます。既存店舗の数が多いと要因を増やすことができます。
この式に、新規物件の各要因を示すデータを代入することで、自動的に店舗売上が計算され、その金額をこのモデルに基づいて算出された“予測値”と考えます。
エクセルに組み込めば新規物件の関連データを入力すると予測値が自動的に求まるようになります。表に簡単なダミー事例を示しました。黄色の部分に数字を入力すると、黄緑色のセルに自動的に値が表示されます。
係数は統計的な手法で求められた数字で予測時に変更してはいけません。このような仕組みを作り上げることが売上予測の業務です。
【表】売上予測(モデル)のイメージ
現時点ではイメージを持っていただければ十分です。
相応しい要因を決定して要因数を増やしていけば、店舗間の売上のちらばり(全店平均からの個々の店舗の売上の離れ具合)が小さくなっていき、数式(モデル)の説明力が増していくのです。
全店平均からの個々の店舗の売上の離れ具合の全体を100とした場合、その90%から95%を説明できるようにすることが目標とされます。これを自力でできるようになる方法を、次回の講座でお話しします。
(つづく)