新規出店候補物件が開業に至るまでのプロセス

新規出店候補物件が開業に至るまで
出店戦略の策定

出店戦略と聞くと、「今後3年で店舗数500店舗を目指す」などの数字上の経営目標を意味すると思われがちであるが、それは出店戦略ではなく、あくまでも中長期目標である。

出店戦略では、市場機会の大きさに応じて、地区(関東・関西・九州などの広範囲の区域)、都道府県、更に下位の自治体レベルにまで、中長期目標をブレークダウンする必要がある。

出店戦略は、店舗を直営店として運営する企業の場合は特に重要となる。

その理由の1つは、店長・店長候補・契約社員・アルバイトといった人材を計画的に採用し、将来的に彼らの育成や異動計画をも自社で行う必要があるためで、この点はフランチャイズを主体とする企業とは大きく異なる。

また、全社的な物流効率を改善するためにも出店戦略は不可欠である。店舗が集中している地域から離れたところに1店だけしか店舗がない状況を作れば、自ずと物流は非効率となってしまうため、新規出店後数か月から数年以内には追加出店することを予定しておく必要がある。複数店舗が開けられない地区に安易に出店すべきではないことは言うまでもない。

市場規模の推定や地域ドミナントを形成するのに十分な規模の市場を選択することも出店戦略を策定する上での重要な要素となる。

さらに、追加出店に伴う既存店舗への影響(カニバリゼーション)に関しても、出店戦略策定段階で織り込むことが望ましい。

戦術への落とし込み

出店戦略の策定段階で自治体レベルの出店数が決まると、次は具体的な戦術を練る段階に入る。

各自治体は繁華街、ビジネス街、住宅街などのセグメントに分割される。各セグメント内部も人口の張り付きや、動線の形成のされ方に応じて更に細分化される。1店舗あたりの商圏が狭くなればなるほど、細分化の度合いはより細かいものになる。

こうして区分けされたミクロレベルの市場において、立地面の利便性が高い一等地、二等地で標的とすべき立地が具体的な区画のレベルで識別される。

好立地に関する情報は不動産市場に流通していない場合がほとんどである。一等地に店舗を開けられる優秀な店舗開発担当は、こうした表に出ていない情報を他社に先駆けてとらえ、オーナーやディベロッパーとの交渉に着手する。テナント募集の広告や張り紙を見て不動産会社に電話するようなことは決してしないのである。

社内調整

仮に開店した場合、開店後の売上や収益に関する予算に関する責任を負うのは店舗運営を担当する部署である。そのため店舗開発担当と店舗運営担当との間の意見調整や、相互信頼に基づいた合意形成が新店の成否を決める。

主な社内での協議事項を図表4-3に示す。こうした内容を両者が同じ目線で協議し、仮に開店した場合にいくらの売上が見込めるかを予測する。その金額をもとに賃料や人件費を含む経費に関する要素を踏まえた収支をシュミレーションする。

出店判断をする際の社内基準を満たすかどうかを確認し、基準が満たされない場合は、経済条件の修正や営業面積の増加、看板サイン等の確保に関する交渉を地主と改めて行うことになる。

こうして最終的に社内基準を満たしたものが新規出店候補となり、本契約を経て開業にいたる。

[図表] 新規出店前の主な協議事項

分類 協議事項 具体的な内容
市場(商圏) データ 店前通行量(道路交通量)、TG、駅乗降客数など仮設商圏内のデモグラフィックデータ(所得層、人口伸び率、年齢層、小売業年間販売額乗用車保有率など)入居する施設に関する情報(館内人口、来館者数、テナント数、商業施設年商など)
来店手段 徒歩、自転車、車、電車など
客層 来店客の年齢層、男女比、職業構成などの時間帯別の変化
将来性 再開発計画、改装計画の有無(将来動線が変わらないか?)近隣に何店舗展開して行くか?(完成形イメージの共有)どこに、どのような業態を展開するのか?その店の役割は何か?(デザイン、用途など)
競争環境 競合店 エリアへの出店数、立地、売上、面積、看板、店員数、営業時間帯、客層など(以上、他社競合店の情報)既存店の収益状況、契約状況・改装計画の有無など(以上、自社競合店の情報)
物件要因 視認性 利用者にとって認識し易い場所か、間口は十分あるか、効果的な看板掲出が可能か、など
動線 店前を通過する利用者の量(強さ)、方向、必然性など
レイアウト案 坪数、席数、営業時間、座席回転率など
収益性ほか ビジネス 契約形態、契約年数、経済条件、利益率、投資回収率周辺既存店へのカニバリ(自社競合)など
与信 出店するビルや土地の謄本貸主の信用調査結果、資産状況、人柄など

出所)株式会社福徳社作成