【演習問題+解説】北海道に20店舗開店するためのマーケット・プランを作成せよ

シニア・レベルの演習問題~マーケット・プランニングの基本的な考え方を学ぶ~

いきなり訊かれても難解かもしれませんが、チェーン展開する企業のシニア・レベルのマネージャーが出来なければならない業務として、次のような課題を考えてみましょう。

小型店舗を全国規模で多店舗化する企業を想定し、同社が日本の北海道に20店舗開店するためのマーケット・プランを立案せよ

ここでは、北海道を例に、ある一定の広さの地理的範囲(以下、エリアと呼びます)ごとの出店計画を策定する際の考え方を学んでいただきたいと思います。

皆さんならどのようなプロセスでこのタスクの結論を出されますか?

まったくアイデアが無かったり、頭が動かない場合は、戦略立案能力が要求されるシニア以上のレベルのポジションを得られないかもしれません。そうならないためにも、ぜひマーケット・プランニングの基本的な考え方、必要な情報・データ、その加工方法、アウトプットの最終形について、勉強していただければと思います。

エリアは、九州、四国、首都圏13県といった地理的に接続する複数の都道府県のまとまりや、北海道や沖縄県といった都道府県、宮城県仙台市など主要都市など、様々な設定方法が可能です。しかし、エリアの設定方法が状況によって変わっても、そこでの出店計画(マーケット・プラン)の方法の基本は同じです。土地勘が無いエリアであったとしても、おおまかな出店計画をデスクで作れるようになりましょう。

まずは地図で主要都市の位置と人口を確認する

最初に用意する物は、北海道の地図です。そして主要都市の位置を確認してください。

出店する市場としてどのような特徴がありますか?関連して多店舗展開する上で注意すべき事柄には何が含まれますか?書き出してみてください。

北海道の主要都市の配置を地図で確認したら、市場規模を表す“人口”の多い順に数字を打ってみてください。

1位は札幌市、2位は旭川市です。10位までを示したものが表1です。(データは平成27年1月1日現在のもので、元のデータはこちらのページ [https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/tuk/900brr/index2.htm] からダウンロードできます。

北海道市場規模

北海道全体で約543万人、うち35.6%の約194万人が札幌市に居住しています。2位の旭川市が約34.7万人で6.4%ということで、札幌市への人口集中が激しいことが分かります。

面積が広大で、都市の発達しやすい平野部も分散しているため、都市間の距離も100kmを悠に超えるケースがざらです。

自治体レベルでの市場選定をする

さて、現在取り組んでいる課題は、北海道で20店舗を展開するための出店計画を策定することでした。主要都市に関するデータから決定すべきことがあります。それは出店する地理的市場の範囲です。言い換えると、どの市まで出店範囲を広げるかということです。これを“自治体レベルでの市場選定”と呼びます。

自治体レベルでどこまで店舗網を拡大するべきか?札幌市で留めるか、2位以下の市場にも拡大するべきか?拡大する場合、どの市までとするか?これを客観的でロジカルな方法で決定する必要があります。

(後述しますが、市の名前が有名かどうか、人口の大きさが十分か、といった条件のみを参考にして自治体を選定すると大変なことになりかねません。)

ではどう考えるべきか?この決定のためには2つの方法があります。

20店舗を人口に応じて配分する

一つ目は“20店舗を人口に応じて配分する”という考え方です。

実際に割り振ってみると表2のようになります。店舗数の欄が自治体別の店舗数です。例えば札幌市の場合、20×35.6%=7.1店舗となり、7店舗は札幌市に開店するべきことが分かります。同様に見行くと少なくとも1店舗が成り立つのは3位の函館市までということが分かります。

北海道店舗数配分

人口がある基準値を上回る市を選定する

自治体レベルでどこまで店舗網を拡大するべきか?札幌市で留めるか、2位以下の市場にも拡大するべきか?拡大する場合、どの市までとするか?について決定する客観的でロジカルな方法の二つ目は、“人口がある基準値を上回る市を選定する”という考え方です。

この基準値は、企業の日本国内全体での出店状況によって変わるものです(この点はシニアの上のディレクター・レベルの決定事項で、決定方法は改めてお話します)。

仮にその企業が全国展開を目指し、北海道に20店舗を開店するとしたら、総店舗数はいくつくらいが妥当かを考える必要があります。この場合も、人口応じて店舗数を地域に配分するという考え方を応用すると、北海道の総人口が約543万人、日本全体の総人口が1億2500万人程度とすると、北海道の人口比率は4.3%となります。4.3%の人口に20店舗ということは、20/0.043=465.1で465店舗と概算できます。1億2500万人を465店舗で割ると268817.2となります。約26.9万人につき一店舗と計算でき、その値が“基準値”となります。これを北海道の市に当てはめますと、人口が26.9万人を超えているのは3位函館市までとなります。函館市はぎりぎり1店舗、旭川市も人口34.7万のため1店舗までです。2店舗開けるには人口が基準値の26.9万人の2倍の53.8万人を上回っている必要があります。

以上、企業全体の状況と人口データのみからざっくりした値を計算した結果、次のような仮説が導き出せます。

  • 市場規模から出店可能なエリアは札幌市が最も優先順位が高く7店舗、次いで旭川市、函館市でそれぞれ1店舗、合計9店舗が出店可能である。
  • もちろん採算を度外視するなら更にエリアを拡大しつつ店舗数を増やすことも可能ですが、店舗が採算をとるには一定の市場規模が必要であり、4位以下の市は出店候補地に含めるべきではない。
  • 数字の上では20店舗の開店は、一部の店舗の収益性を犠牲にしない限り困難であり9店舗が妥当な目標である。
  • 20店舗を開業するには、標準的なフォーマットの半分程度の売上でも収益が出せるフォーマットが必要となり、それが可能な場合、出店地域は釧路市以下千歳市まで拡大できる。

ここまで、人口データのみで機械的に出店数を割り振る練習をしました。

しかし、現実的に9店舗開業して良いものなのでしょうか?この考え方については、改めてご説明したいと思います。また、「チェーン店の出店戦略のたて方」の講義でも、自治体レベルでの市場選定の考え方をご説明しましたので、あわせてお読みください。