「商圏」とは何か?(商圏に関する基礎知識)

「行き先」の反対語は何でしょう?

突然ですが、クイズです。

「行き先」の反対語は何でしょう?

行き先とは、大辞林第三版によれば、「これから行こうとしている目的地」のことです。その反対語です。

これは意外と考えたことがなく、すぐに出てくる方は少ないのではないかと思います。

同じく大辞林第三版では「通り過ぎてきた場所・方向。通過した所」という意味の言葉です。

「商圏」とは?

「行き先」の反意語は「来し方」だそうです。読み方は「きしかた」「こしかた」。ローマ字で「koshikata」と入力すると「来し方」と変換されますが、「kishikata」だとうまく変換されません。

それが店舗と何の関係があるの?と思われるかもしれませんが、今日のタイトルは商圏です。では商圏とは何ですか?店舗の商圏を詳しく把握されていますか?

店舗の商圏を詳しく調べたいときに、簡単な方法があります。

店舗のお客さんに「来し方」を尋ねて、それを地図上にプロットしてみてください(来店客調査)。その分布が店舗の商圏です。商圏とは、店舗のお客さんの「来し方」の地理的な範囲のことです。

ただし、尋ねる際には注意が必要で、店舗に来る“直前”の来し方を尋ねてください。

自宅からと直接来られたという人は来し方は「自宅」ですが、自宅から電車に乗って店舗の最寄駅で降りて、そこからまっすぐ来た人の来し方は自宅ではなく「駅」です。

店舗は何かのついでに利用されることが多いので、来し方としてどのようなものがあるか、それらが店舗からどのくらいの距離の場所にあるか視覚化してみてください。

  • 商圏はどのような形をしていますか?
  • 店舗からどのくらい遠くまで広がっていますか?
  • 来し方とするお客さんが多いのはどのような場所ですか?

商圏に関する勘違い: 商圏は円形ではない

商圏の大きさは?という質問に対して、半径500メートルくらい、2キロメートルくらい、などの距離で答える方が多いように思います。

その方の頭の中には、商圏の形が円形であるという前提があるのではないでしょうか。

その場合、地図データの情報から、半径500メートル、2キロメートルの中に人口が十分いることが分かると、売上予測において、売上を楽観的に予測してしまいがちになります。

確かに、距離で決まるというのは単純で分かりやすいのですが、それはいくつかの条件が揃わないと期待できないのです(詳しくはまた、「中心地理論」の話のときに述べます)。

実際には、300メートル先から来るお客さんもいれば、200m先なのにほとんど来てくれないお客さんもいます。

それはなぜなのでしょうか?

立地判断における商圏の考え方

今、ある2つの物件があって、いずれも、半径500m内の夜間人口が20,000人というデータがあったとします。

どちらを選ぶか考えるとき、それぞれの商圏のどのような点に着目すべきでしょうか?

商圏となり得る場所でも、顧客を呼べないことがある?

確認ですが、商圏とは何でしたか?

店舗のお客さんの「来し方」の地理的な範囲でした。要はお客さんがどこから来ているかの地理的範囲のことでした。

商圏は、だいたい半径何メートルくらい、といった距離で把握しようとします。それはそれで良いのですが、商圏となり得る場所でもお客さんを呼べないことがあることを知っておくべきです。

距離が離れた場所から集客するのが難しいことは分かりやすいですよね。なぜなら、お客さんが来店するのに要する時間や労力、時には交通費、が増えるためです。

しかし、半径(直進距離)は短くても、あなたの店舗自体に問題が無くても、お客さんがあなたの店舗に行きにくいと感じてしまうことがあるのです。その場合、店舗の商圏は小さくなり、それは見込み客の数が少なくなることを意味します。距離は近くてもあなたの店舗周辺に行くのに心理的な抵抗を感じさせるものがあるのです。

商圏は「分断」されることがある

例えば、距離は200メートルでも、途中に河川が流れていて橋を渡らなければ店舗に着かないような場合です。河川の対岸から集客するのは簡単ではないことが分かります。商圏と想定する範囲の中に河川があって、店舗からみて河川を超えた部分の面積が半分もあるような場合は、川の幅にもよりますが、店舗の商圏は最悪の場合はその半分になってしまうと考えるべきです。

このように商圏は「分断」されることがあるのです。

分断された後の状況をよく把握する必要があります。それを怠ると見込み客の数を多めに見積もることになり、開業後の売上が予測に達しないという悲惨な事態を招いてしまうのです。

河川のほかに商圏を分断するものは何があるでしょう?

駅前物件の出店判断で重要なこと

駅前に物件があったとします。

商圏と想定される範囲内に人口は多く、河川も流れていないことを確認しました。さて、何を確認しますか?

通常の駅は南口、北口など複数の出入口があります。つまり、線路があると商圏は分断される可能性が高いのです。

河川の橋と同じで踏切を超えた先というのは遠く感じるものです。線路の本数が増えて踏切の幅が広がったり、遮断機が下りている時間が長かったりすればなおさらです。

線路をはさんだ駅の反対側を、物件のある側と同等に考えるのは危険です。

駅の反対側に大規模マンションがあって、そこに集客を大きく依存することを期待するようなことは避けるべきです。お客さんはいつまでもわざわざ来てはくれないのです。

物件のある側の商圏をしっかり精査し、現実的な見込み客の数を把握したうえで出店判断をするべきなのです。

立地判断のケーススタディー(考えてみよう編)

午前8:30。オフィス街の地下鉄の駅の真上にある物件(路面店)の前を大勢のビジネス・パーソンが通行しています。

片側2車線の〇〇通りに面しており、周辺はオフィスビルが密集しています。

駅を中心とした半径500メートル圏内の昼間人口は70,000人を超えています。

手堅い立地に聞こえますが、実際はどうなのでしょう?

これが、物件周辺の写真です。この写真を見て、どう立地判断すべきか考えてみましょう。

オフィス街の出店1オフィス街の出店2

立地判断のケーススタディー(解説編)

「考えてみよう編」への回答です。

着目すべき点は、片側2車線の〇〇通りに面しており、という箇所です。

写真を見ても、〇〇通りを人が横断するには心理的な抵抗が大きいように見受けられます。

〇〇通りを挟んだ対面から集客を期待するのは難しいと考えた方がよいでしょう。つまり、大きな通りによっても商圏は分断されるのです。

大通り1つで2分割、2つの大通りが交差していたら4分割、といった具合です。

特に横断禁止の大通りの場合、横断可能な場所は信号のある交差点に限られます。大通りに面していて、交差点と交差点の間にある立地では、「テナント募集」の表示をよく見かけるような気がしませんか?

交差点で分断された商圏

オフィス街の商圏は想像以上に狭い

オフィス街は商圏が想像以上に狭いので注意が必要です。

なぜなら会社員は移動にそれほど時間をかけられないためです。

会社員が昼休みに事務所を出て、食事や買い物などの目的を済ませて、再び事務所に戻るまで1時間使えるとすると、目的地までの移動にかける時間は何分くらいでしょう?せいぜい3分から5分だと思います。距離にすると時速4キロメートルで歩くとして、移動距離は200メートルから333メートルです。

オフィス街は商圏が狭いほかに、特定の時間に集中する需要を狙った競争企業が多く、クイックサービスが特に要求される、土日祝日は売上が期待できない、などの特徴があります。

商圏が分断される“最後の要因”とは?

商圏が分断される要因として、これまでに、3つのものを挙げてきました。

  1. 河川、
  2. 線路、
  3. 大きな通りです。

今日は最後の要因を紹介します。それは競争相手の店舗(競合店)です。

もし近隣に競争相手の店舗が出店してきたらどうなるでしょうか?

恐らく自分の店舗と競争相手の店舗の商圏は重なり合います。店舗が増えることで需要も増す保証はなく、そこでは売上を食い合うことになるでしょう。

競争相手の店舗の背後にいる消費者にとっては、競争相手の店舗の方が立地上の利便性が高まり、自分の店舗への来店頻度(利用頻度)が低下することが予想されます。

このように、競合店は自分の店舗の商圏を侵食します。これは河川や線路、大きな通りと異なり、店舗を開業後に発生しうる要因です。

競争相手がいないから安全という考え方ではなく、開業後に競争相手に出店されて商圏を侵食されるような立地が近隣に無いかどうかも、出店判断の際に確認する必要があります。

商圏が分断されることの意味

商圏は分断、侵食されるということをお話してきましたが、それは店舗にとってどのような意味を持つのでしょうか?

既にお分かりの方も多いと思いますが、店舗を中心とした円形の商圏内の人口に対して、自分の店舗が実際にカバーできる商圏内の人口が少なくなることを意味します。

それは期待される店舗売上の減少につながります。

出店判断の際には、確実にカバーできる商圏の範囲と競争相手に出店されたら危険な立地の有無を現地調査で確認する必要があります。

通りの向こうからもお客さんを呼べる、という希望的観測に基づいて売上を想定することは避けるべきなのです。