商業施設を「定点観測」する~現調で確認すべきことは何か?~

最近の平日ですが、1日時間があり、朝から天気もよく、デスクワークの効率も上がらないため、(お恥ずかしい話ですが)開業後未だに行っておらず気になっていた商業施設の現状視察に行くことにしました。神奈川県のららぽーと2店(ららぽーと海老名ららぽーと湘南平塚)です。

が、その前に、というのが今日のお話です。

何事も、現地調査には「視点」「仮説」「チェック項目」を持っていくべきで、それが無いと、ただ行って終わりとなってしまいます。その点について、ご参考になれば、という内容を共有させていただきます。

商業施設の現状を推理する際に、確認することが2つあります。というお話ですが、その前に、そもそも“現状を推理するとはどういうことか?”から考えたいと思います。

不用意に現場に行くと、全体的な混雑具合や客層、どんな目新しいテナントが入っていたか、どのテナントが一番集客していたか、といったことにどうしても目が行きがちです。しかし、その情報はその時点での状況に関するものであって、結局は“それがどうしたの?”で終わりがちなものです。大した発見もなく終わる可能性が高いのです。交通費や貴重な時間を費やしているのですから、企業人としてはそれで終わってはいけないのです。

店舗開発の担当者が商業施設の訪店時に確認すべきことは何か?

それは、その商業施設の“健康状態”のようなものです。「健康だ」と何かで報じられていたとしても、“本当かな?”という見方で確認する姿勢が必要です。

開業当初は好調であったとしても、利用客の動きは時間の経過とともに変化しますし、それに伴い商業施設のテナントの全てが好調を維持することは期待しにくいものです。時間の経過とともに何かしらの新たな課題が生じるのが経営であり、店舗運営なので、それは仕方のないことです。

それだけに、単なる訪店だけでなく、定期的な訪店、つまり「定点観測」が必要なのです。

では、健康状態を確認するには、具体的に何を見ればよいのでしょうか?

商業施設を定点観測する際には、何らかの“視点”が必要です。繰り返しになりますが、不用意に現場に行ってしまうと、誰でも気づくことにどうしても目が行きがちで、大した発見もなく終わる可能性が高いのです。そうならないために、ということで、施設の健康状態を確認するヒントをご参考までに共有させていただきます。

1つ目は、“フロアガイドの最終更新日”です(多くの場合、フロアガイド表4の右下に小さいフォントで記載されています)。この日付が最近であればるほど“危険信号”と判断します。なぜならそれは、施設を運営する上で、お客様へのコミュニケーションにつき何らかの修正を余儀なくされたことを物語っているためです。更新頻度が高ければ高いほど、“裏は大変なんだな”と考えて良いと思います。

確認事項の2つ目は、1つ目に関連して、“フロアガイドの更新がいかなる理由によるものか?”です。具体的には、“入れ替わったテナントはどこか?”“現状、閉まっているテナントはどこか?”“セールを行っている店はどこか?”を確認し、“そうしたテナントの共通点は何か?”などを考えます。“半年後に「定点観測」に来たらこのテナントは無いな(入れ替わっているな)”と思ったとしたら、お茶を飲んだり、食事したりしながら、手帳等に記録しておきましょう。それが次回の訪店の際の“仮説”になりますし、そのテナントには不謹慎な話ですが、万が一その仮説が当たっていたら、ご自身には何らかの力がついていると考えてよいと思います。

“この商業施設で成り立たなかったテナントはどこか?それはなぜか?”に関する知見こそが、今後の自社の出店を失敗させない上では重要な意味を持つと思われます。他社の失敗から多くを学ぶ必要があります。

消費者が余暇や買い物を楽しむ場所を、こんな“暗い”思考回路で訪れなければないのか?と思われるかもしれませんが、自社の将来を担う店舗開発に関わる場合には、それが当然なのではないかと思われます。

以上の視点で、神奈川県のららぽーと2店(ららぽーと海老名ららぽーと湘南平塚)の定点観測を行いましたので、その結果を共有させていただきます。

ららぽーと『海老名』と『湘南平塚』の健康状態の比較

特別な意味はありませんが、『ららぽーと海老名』からみてみましょう。平成27年10月末の開業から1年4ヶ月が経過しようとしています。

『ららぽーと海老名』は、2月中旬の平日13時30分時点で、駐車場は約1,150台が埋まっていました。といっても、自分で数えたのではなく、駐車場入口に現在の駐車場の空き台数が652台前後と電光掲示板で表示されており、その数字を駐車場台数の1,800から引いただけのものです。相模ナンバーが半数以上、次いで多いのが横浜と湘南ナンバーです。

駐車場は“有料”です。ただ、買物金額に応じて3時間までは無料にできます。車で来店した客にこうした時間的なプレッシャーをかけるということは好調であることが予想されますが、実際はどうでしょうか?

早速、フロアガイドの最終更新日を確認すると2017年2月3日版で、つい最近更新されたことが分かります。

『ららぽーと海老名』は全部で4フロアで、2FがJR相模線海老名駅と“直結”しています。直結と言っても、とってつけたような改札口からです。JR相模線をわざわざ使い、その改札から直で出て来る人がどれだけいるかは疑わしく、時間的なプレッシャーから短時間で確認した限りですが、小田急線・相鉄線の駅方面からのデッキを通過してくる人の方が圧倒的に多い印象を受けました。ちなみにその日の天気は快晴で風弱く寒さもそれほど厳しくなく、わざわざ歩くには最高に近いコンディションでした。

商業施設の中に入ってみます。メインの入口脇は苦戦するケースが多いのですが、そんな目で見てみると“やはり”でした。

入って間もない左右の2つのテナントが白い囲いになっています。掲示によれば、『LE JUN』が1月29日に、 『MANO garment complex』が2月12日にそれぞれ閉店したそうです。確かにフロアガイドも空欄になっています。他に空欄は?と探すと、2Fの最も奥の大きめの面積の区画がありました。会員カード勧誘の告知が派手に貼られています。普通の人は目にもしないと思われる掲示ですが、これもよく確認すると1月22日に『OLD NAVY』が閉店したためであることが分かりました。

このように観察すると、3Fを除くフロアで空欄が確認できます。

1Fの惣菜や菓子を販売する店が並ぶ区画で2件。これらは何があったか確認できませんでしたが、鮮魚売り場の横の空いた区画ではカード会員の勧誘が行われていました。『JINS』横の区画は『CABANA in Bou Jeloud』が1月28日に閉店したそうです(この会社のホームページにはまだ海老名店が記載されていますが、お店はありませんのでご注意ください)。

4Fは1件で、『ユウホラ スキップ』という靴屋さんが閉店しています。この会社の場合は興味深く、海老名駅の反対側にもともと店舗が1店あり、そちらをご利用くださいと掲示されています。これはつまり、新たな商業施設が出来たとはいえ、海老名駅周辺で2店は成り立たない業種があるということを意味していると考えることもできます。

4Fの中央に『EBICEN flatto』という区画があり、ここは旅行を軸に書籍や雑貨を並べているように見受けられましたが、併設する『BOOK CAFÉ ZAKKA BOWL』は、考えをまとめるには最適な、静かで居心地がよい空間で、コーヒーの質も高く、カフェインを効率よく補給できました。

そんなこんなで間もなく2時間経過です。有隣堂で2,300円の地図を買って駐車券を処理してもらい、『ららぽーと湘南平塚』へ向かうことにしました。駐車場を出る時に思ったことは、“いつかこの駐車場は無料になる”ということでした。

『ららぽーと海老名』から車で迷わずに、渋滞なく行けば30分くらいで『ららぽーと湘南平塚』に着きます。

『ららぽーと湘南平塚』は、駐車場に何台駐車しているかは残念ながら分かりませんでしたが、湘南ナンバーが圧倒的に多く、横浜、相模ナンバーが若干目立つ程度です。平塚駅からはだいぶ離れており、周辺の集合住宅等の人を除けば車来店が大半のようです。駐車場台数も海老名の倍以上の4000台で、エリア最大級です。

フロアガイドの最近の更新時は2016年10月17日で、『ららぽーと海老名』に比べるとだいぶ前です。この段階で“海老名よりは調子が良いのではないか?”という仮説が立ち、ということは、“海老名のように閉店告知はあまり見られなのではないか?”と考え、実際はどうかを確認します。

入り口脇に小さくサインがありメインエントランスは1Fとのことです。入って3件目左手に『カールスジュニア』の2号店があります。“商業施設内初出店”の目玉テナントのはずですし、彼らの2号店ということもあり集客状況が気になりますが、昼時にしては随分落ち着いた印象を受けました。

なかなか見つかりませんでしたが、一件だけ閉店セールを確認できました。2Fの無印良品とGAPに挟まれた区画の『Op』です。同フロア中央にの『coca』もセールの告知が目立ちました。苦しそうな気配がしたのはこの程度でした。

『ららぽーと海老名』に比べるとカフェの機能を果たす店舗が多いのですが、その中で書店の有隣堂が『STORY CAFE』というカフェを営業していました。無責任に希望を述べさせていただくと、カフェは海老名でやって、その分、ここでは専門書の棚を増加するなどして本業の充実を図ってほしかったですね。

以上よりフロアガイドと閉店告知の2つの視点で健康状態を比較した限りでは、元気なのは『ららぽーと湘南平塚』というお話でした。引き続き定点観測を続け、変化が見られましたら共有させていただきます。