都市部における「良い立地」と、地方部における「良い立地」の違い

都市部における「良い立地」とは?

全国チェーンは、なぜ駅ナカや駅付近に出店したがるのか?

それは、老若男女を問わず不特定多数の人々を集める力があるためです。

有名な全国チェーンといえども、店舗単独で集客するのは難しいため、集客力を外部の施設に依存しているのです。こうした施設は駅以外にもありますが、ここでは「駅」に着目します。

商売する上で安全な駅とはどんな駅でしょうか?

最も良い駅は、繰り返しになりますが、老若男女を問わず不特定多数の人々が利用する駅です。複数の路線が乗り入れている、乗降客数の多いターミナル駅が当てはまります。勤め人、買い物客、学生、旅行者、乗換客などが長時間にわたり通過する駅です。住宅街やオフィス街の駅は、周辺住民や周辺のオフィスに勤務する人に利用客が固定され、朝方と夕方に乗降客が集中しがちです。仮に複数の路線が乗り入れていたとしても、多くの乗客はその駅を乗換のためだけに通過するのみです。

ここまでの話は通勤・通学・買い物等の移動手段が鉄道が中心の、いわば都市部に当てはまる話です。「自家用車が無くても生活できる人々」中心に形成されるマーケットで言えることです。

都市部における「良い立地」=地方都市における「良い立地」か?

都市部を中心に出店している全国チェーンは、都市部の感覚で都市部以外のマーケットへの出店計画を考えがちです。そこでも、駅や駅周辺を出店候補地の一つとして、時には、そのマーケットでの一号店の候補地として考えます。

しかし、「自家用車が無くては生活できない人々中心に形成されるマーケット」にも、その感覚は当てはまるのでしょうか?

鳥取県の場合

「自家用車が無くては生活できない人々中心に形成されるマーケット」は地方都市に多く見られます。例えば、最近、スターバックス一号店が開いて話題となった鳥取県もしかりです。そこでの駅の位置づけを知るには、駅の利用状況を知るのが近道です。

駅の規模・集客力を知りたい場合、何を確認しますか?

誰が見ても同じ、客観的な数字で測られているものが望ましいです。簡単なものは、乗り入れている支線の数、ホームの数、停車する電車の本数などです。また、調べる必要がありますが駅乗降客数も信頼できるデータが公表されていれば確認します。

では鳥取駅の場合は?

時刻表や駅のホームページ等で確認したところ、山陰本線と因美線(若桜鉄道を含む)の2線が乗り入れており、ホーム数は1番線から4番線までの4つ。停車する電車の本数は、平日のものですが、因美線が5時18分から22時18分までで33本(13時台はゼロ)、山陰本線(浜坂・豊岡方面)が5時28分から22時48分までで18本(7時台と10時台がゼロ)、山陰本線(倉吉・米子方面)が5時26分から23時00分までで41本の合計92本。均すと一時間当たり4.8本です。駅乗降客数は、鳥取市市勢要覧によれば平成24年の鳥取駅乗降客数は年間のべ408万人で、単純に365で割ると一日11,178人と求まります。

こうした数字は、単に人口が少ないということのほかに、駅を必要とする人の割合が小さいことも示しています。鳥取市内に居住し、かつ、鳥取市内に通勤先や通学先がある人は、平日に電車で鳥取市を出ることはほとんどないでしょう。乗用車があれば休日の移動に電車を使うこともほとんどないはずです。つまり、特別なことがない限り駅を使わなくても日常生活が完結してしまうのです。鳥取市民にとって、駅は日常的な場所ではないのです。この点が都市部とは大きく異なります。

「マーケットによって駅が日常的である度合がどのくらい異なるか」を説明するのに便利な統計数値をご紹介します。「旅客輸送における輸送機関分担率」というものをご存知ですか?「交通機関別旅客輸送分担率」とも呼ばれているようです。つまり、人を運ぶための旅客輸送量の総数の輸送機関(バス・自家用車・航空機・鉄道・船)ごとの割合を示したもので、国土交通省が公表している数字です。

国土交通省ウェブサイトによると、平成19年度の全輸送機関の総旅客輸送量は、約897億人(前年度比 1.8%増加)であり、前年度よりやや増加しているそうです。輸送機関別の輸送量は、自動車が約669億人(同1.5%増加)、鉄道が約227億人(同2.7%増加)、航空が9千5百万人(同2.2%減少)、旅客船が約7千9百万人(同2.1%増加)となっており、輸送機関別の分担率は、自動車74.6%、鉄道25.2%(うちJR 9.8%、民鉄15.4%)、航空0.1%、旅客船0.1%です。

この全国数値が都道府県別ブレイクダウンされています。 それによると、東京都の都内移動における電車の輸送分担率は何%だと思いますか?69%です。自動車は30.9%です。

では、鳥取県の県内移動における電車の輸送負担率は何%でしょう?なんと3.3%です。自動車はなんと96.7%です。ちなみに自動車の輸送負担率が一番高いのは宮崎県で99.0%です。表は、国土交通省による平成19年度の府県別輸送機関分担率(府県内)をもとに作成した、鉄道の旅客輸送分担率の都道府県ランキングです。駅が日常的なマーケットは少数派であることが分かります。

【表1 鉄道の旅客輸送分担率 都道府県別ランキング】

鉄道の旅客輸送分担率 道府県別ランキング

客層分類マトリクスから考える

客層を分類する次のマトリクスをご覧ください。

【表2 客層の分類】

顧客構成 特定の店舗の利用頻度
不特定多数 A B
特定少数 C D

縦軸は「不特定多数」と「特定少数」に分かれています。不特定多数とは「特定できない多くの客が混在する状態」で、特定少数とは「特定できる少数の客が混在する状態」です。横軸は、お客さん一人がある特定の店舗を利用する頻度が高いか、低いかを表します。特定の店舗というのが重要です。チェーン店の場合、そのチェーンの複数の店舗ではなく、特定の〇〇店の利用頻度が高いか、低いかを表しています。2つの軸を掛け合わせると、A、B、C、Dの2×2 = 4つのマスができます。

4つのうちAとDは現実的に考えにくいものです。Aは特定できないくらいの多くの同じお客さんが、繰り返し利用してくれるような夢のようなケースで、東京ディズニーシ―(TDS)やユニバーサルスタジオ・ジャパン(USJ)のような特別な施設ぐらいしか実現できないでしょう。Dは、特定可能な少数の同じお客さんが、繰り返し利用しないケースで、業としての商売は成り立ち得ません。

ではBとCは?Bは、特定できないくらいの多くの同じお客さんが、たまたま利用するようなケースです。一方Cは、特定可能な少数の同じお客さんが、繰り返し利用するケースです。極端な言い方をすれば、全体で100のトランズアクション(取引)があった場合、Bではそれぞれ異なる100人が1回だけ取引をすることで100トランズアクションが形成される一方、Cでは、例えば同一人物が10人いたとして、彼らが10回取引することで100トランズアクションが形成されます。Bに比べてCは常連さんの比率が高いと言えば分かりやすいかもしれません。

このマトリクスを使って考えると、全国チェーンが得意とするのはBを対象にする出店であると言えます。つまり、全国チェーンはお客さんの頭数を多くすることでトランザクション(取引件数)を稼ぐ傾向にあるため、集客できないことの危険性が低い立地(例えば駅や大型商業施設など)を出店候補地として志向します。集客が高い施設になればなるほど全国チェーンのテナントが増えるのはそのためです。

一方で、人口や世帯が地理的に広域に分散しているようなマーケットでは、移動手段が鉄道以外であることが多く、駅の集客力が弱いため、大型商業施設の開発が進む、ないしは、道路交通量が集中する地域がある、などの条件が存在しない限り全国チェーンは出店しにくいものなのです。こうした条件が揃わない場合、マーケットは無数の小さい商圏に分断され、個々の小商圏を狙った地元企業や個人事業主が商売をされています。他所者には、すぐにそれらの存在を識別するのが難しいものです。しかし、こうした企業や店舗は長い間に渡り地元の方々に支持されているものであり、彼らの存在も全国チェーンの出店を躊躇させる要因となります。つまり、Cを対象とするのは全国チェーンが苦手とする出店と言え、地元企業や個人事業主にとっては大きな出店機会となります。この場合、小商圏でも収益の出せる店舗を、それぞれの小商圏に配置することでマーケットをカバーする必要があります。これを「ドミナント」と言います。

表3は、表2のつづきで同表を修正したものです。ここでは、全国チェーンにとっての良い立地と、地元企業や個人事業にとっての良い立地は性質が異なると考えるべきである、と結論付けたいと思います。

【表3 客層の分類(つづき)】

客層 特定の店舗の利用頻度
不特定多数 A 理想だが通常ありえない

(TDS、USJ向き)

B

(全国チェーン向き)

特定少数 C

(地元企業・個人事業向き)

D ×

(盆踊りの屋台?)

車社会における「良い立地」とは?

では、車社会で、住人は駅を都心に出るときにしか利用しないような郊外型の商圏の場合、良い立地とはどのような立地でしょうか。

全国チェーンの企業であれば、駅以外の集客力がある施設をTGとして、例えば、大型商業施設の中や、主要交差点への出店などを通常は考えます。道路交通量の多い主要な街道沿いも検討対象になります。いわゆる「ロードサイド銀座」が形成されるのはそのためです。では、地元密着型のサービス業、例えば、学習塾であればどうでしょうか。

学習塾の特徴として、多くの場合、代金を支払う人と、実際にサービスを受ける人が異なることが挙げられます。授業料を支払うのは保護者で、実際に授業等を受けるのはそのお子さんたちです。彼らは小・中・高等学校から一度自宅に戻り、通塾し、授業後には帰宅するでしょう。つまり、「自宅→教室→自宅」と移動します。週に2日など通う頻度も多いため、また、徒歩や自転車で通うとなると移動距離は、想像以上に短くなることが予想されます。また、保護者もなるべく自宅から近くの校舎に通わせたいと思うのが普通でしょう。こうした場合、全国チェーンにとっての良い立地が、そのまま学習塾の個々の校舎にとっても良い立地になるかどうかを考えると、必ずしもそうとは限らないと言わざるを得ません。つまり、“不特定多数”のお客さんを相手にする場合と、“特定少数”のお客さんを相手にする場合とでは、良い立地の定義が異なるのです。そして、後者の場合の良い立地の特徴を良く把握し、定義する必要があるのです。

では、“特定少数”のお客さんを相手にする場合の良い立地とは、どのような立地でしょうか。学習塾に実際に通学してサービスを受けるのは子供達であり、彼らは通常は学校から帰宅後に「自宅→教室→自宅」と移動する。しかも、徒歩や自転車で週に複数回移動することもあるため移動距離は、想像以上に短くなることを確認しました。

下の図のケースではどうでしょうか。街道が交差する主要交差点は、商圏を分断する要素の一つである大きな通り2本に面しているため、分断された一部分の商圏の末端に位置することを意味します。図は、2本の太い線がそれぞれの街道を、その交点が主要交差点をそれぞれ表し、周辺に住宅地が4つある様子を示しています。1と2~5では、どちらが良い立地といえるでしょうか?

学習塾の立地

特定少数が高頻度で利用するサービス(以下、特定少数・高頻度型)を提供する場合、1の立地への行きかえりの利便性が高いお客さんは、4つの住宅地の交差点に近い位置に居住する人が考えられます。しかし、街道があることで、1の左上と右側からの集客に高い期待をするのは危険かもしれません。むしろ、住宅地の中心に位置する2~5のような立地に校舎があった方が、通学の利便性を感じるお客さんを取り込みやすいかもしれません。もちろん、住宅のはりつき具合が弱く、十分な顧客数の確保が困難な場合、話は別ですが。学習塾以外で特定少数・高頻度型と考えられるコンビニエンスストアやドラッグストア等の業態についても同様に街道沿いへの出店が確認できます。

後背地に住宅が密集している区域の入口やその中心にあたる立地の評価を考え直してみるのは、特定少数・高頻度型の業態の場合は特に、有意義なことと思われます。「不特定多数・低頻度型の業態にとって良い立地が、必ずしも特定少数・高頻度型の業態にとっても良い立地であるとは限らない」という考え方は参考になるのではないかと思います。