「ドミナント戦略」の基礎知識

ドミナント戦略とは?

本講座では、「商圏」「動線」など、きちんと定義されていないにもかかわらず実務で頻繁に用いられている用語についてとりあげてきました。

「ドミナント戦略(ドミナント出店)」という言葉も、きちんと定義がされていないのに、業務でよく使われている言葉の一つです。

「ドミナント戦略」を定義する

ネットで「ドミナント戦略」と検索すると、多くのサイトで、そのメリットが解説されていることが分かります。ニュアンス的に「出店地域を絞り込みそこに集中的に出店している≒ドミナント戦略」、と捉えられがちですが、果たしてそれだけで十分なのでしょうか?

新規開拓.comによれば、「商圏とは、一つの店舗の勢力の及ぶ範囲のことだが、このような店舗を多く出店していて、勢力を圧倒的に確保している地域のことを商勢圏という。その商勢圏の中でも、集中的に出店していて『金城湯池』を形成している地域のことをドミナント・エリアという」そうです。因みに金城湯池は「きんじょうとうち」と読み、“堅固で、他から 侵害されにくい勢力範囲”という意味だそうです。

そもそもドミナント戦略の“ドミナント(dominant)”には、「支配的な、最も有力な、群を抜いて高い(出所:研究社新英和辞典)」、といった意味があります。つまり、ドミナント戦略とは、「ある商勢圏で、店舗数ベースで最大の市場シェアを獲得し、他社が出店により入り込むことが困難なくらいに圧倒的な優位性を築く」という側面が強調されるべきです。

従って、ある特定の商勢圏にだけ出店していれば、それがすなわちドミナント戦略であるとは言えないのです。金城湯池(堅固で、他社に侵害されにくい勢力範囲)が形成できているか否かを確認する必要があります。

それを受けて、本講座では、ドミナント出店を以下のように定義します。

「ドミナント出店」の定義

ある商勢圏に集中的に出店することで、店舗数ベースで最大の市場シェアを獲得し、他社が出店により入り込むことが困難なくらいに圧倒的な優位性を築くこと。

ドミナント出店の典型例

ボストン.コムのページでは、「国家を2分する戦い」というタイトルの記事があり、アメリカ市場でのスターバックスとダンキン・ドーナツの出店“戦争”の様子が示されています。英語の本文は抜きにしても、その様子は図で伝わってきますので、お時間のある時にぜひごらんください。緑の点がスターバックス、オレンジの点がダンキン・ドーナツを意味しています。

リンクはこちら>  Split country: Dunkin’ vs. Starbucks

スターバックスのおひざ元の街シアトルには、本当に1ブロックごとにスターバックスの店舗があります。また、オハイオ州ではレストランのほとんどがマクドナルドとウェンディ―ズで占められている街があります。私も出張に行って、毎日ハンバーガーの食事に困ったことがあります。

日本にここで定義した通りのドミナント出店をし、ドミナント・エリアを一つでも持つ企業はあるでしょうか?

残念ながら、ある商勢圏でそこまで徹底的な支配的地位を築いている企業は、日本にはないと言って良いでしょう。日本版のドミナント戦略を考える必要がありそうですね。

なぜ日本ではアメリカ市場のようなドミナント出店が難しいか?

この点について、個人的な話をさせてください。1999年当時の話です。

私は株式会社マーケティングセンターというマーケティング・リサーチ会社で営業企画の仕事をしていました。以下は、ある日、クライアントの日本マクドナルド株式会社の方から伺った話です。

当時の日本マクドナルドは、今と異なり、外食業界の最強企業でした。高速出店の真っ最中で、「日本中の飲食店を全てマクドナルドにすることができるかどうか?」ということから考えていました。個々の店舗の顧客サーベイを定期的に実施し、顧客の個々の店舗の利用頻度も追跡していました。

しかし、その方曰く、「普通の日本人に毎日ハンバーガーを食べさせることは難しく、利用頻度では〇〇〇には勝てない。」とのことでした。

さて、マクドナルドが利用頻度で勝てない○○〇に入るのは何でしょう?ヒントは、日本人が毎日通おうと思えば通える飲食店です。同じマクドナルドの店舗で毎日昼食をとるのは普通の日本人には無理ですよね?しかし同じ〇〇〇なら行こうと思えば行けるのです。

答えは、「定食屋」でした。

皆さんのご自宅や勤務先の近所に個人経営の定食屋さんはありますか?定食屋さんは、日替わり定食、各種定食・丼もの・うどん・そば・ラーメン、カレーライスなどメニューが豊富で、一昨日は日替わりで昨日はカレーライスだったから、今日は軽くそばといった具合に毎日とはいかなくても、日によって注文するものを変えることにより、結構な頻度で利用可能です。

日本人は様々な種類の食材を食べるので、同じものを毎日食べることを期待するのは難しいのです。よって、特定のメニューに絞った専門店になればなるほど、毎日通うのは難しくなるのです。

それに対して定食屋さんは、幅広いにメニューにより同じお客さんに繰り返し利用していただくことで売上を形成することができます。それは比較的狭いマーケットでも出店が可能ということを意味します。地元の定食屋さんはマクドナルドにとっても強敵になるのです。

ドミナント出店を客観的に把握するための指標

ドミナント出店を「ある商勢圏に集中的に出店することで、店舗数ベースで最大の市場シェアを獲得し、他社が出店により入り込むことが困難なくらいに圧倒的な優位性を築くこと」と定義しました。ここからはドミナント出店をより客観的に定義することを試みます。企業間のドミナント度合を比較する指標により、相対的にドミナント度合を把握します。
ドミナント出店の定義に含まれる要素で、客観的に把握できるデータには以下の4つがあります。

  1. 展開する商勢圏の範囲と市場規模。これは展開する範囲とそこの総人口で把握できます。
  2. その企業の店舗数。
  3. 出店地域を絞り出店を集中している度合、つまり、集中度のようなもの。
  4. 市場シェアを計算するための競合企業の店舗数(全てを把握することは困難なので、市場シェア2位の企業等に限定しても良いと思います)。

以上の4つの数値を用いて、いくつかの企業のドミナント度合を比較分析してみたいと思います。

ドミナント出店の成功例『ラッキーピエロ』

ドミナント出店の成功例として、函館市で展開するハンバーガーショップの『ラッキーピエロ』のドミナント度合を考えてみたいと思います。
ドミナント度合を測るのに必要なデータを示しましたが、ラッキーピエロのデータをまとめたものが【表1】です。

【表1】

企業名

商勢圏

人口

店舗数

函館市の比率

マクドナルド店舗数

ラッキーピエロ

函館市

275,263

17 (6.2)

100%

5 (1.8)

函館市内に17店舗を展開しており、人口16,192人あたりに1件あります。
ハンバーガー業界で店舗数首位のマクドナルドが5店で、人口55,053人あたり1件あります。
この数字が小さければ小さいほど小商圏に対応できることを意味します。
店舗数の欄のかっこの中の数字は、人口に対する店舗数の多さを比較するため、店舗数を10万人あたりの数に換算したもので、マクドナルドが1.8店舗に対して、ラッキーピエロはその3倍以上の6.2店舗もあります。
このラッキーピエロの数字を基準にして、他の企業と比較してみたいと思います。

ドミナント出店ケーススタディー『朝鮮飯店』

『朝鮮飯店』のドミナント度合をみてみましょう。本部が群馬県高崎市にある焼肉・しゃぶしゃぶレストランで、群馬県を中心に19店舗を展開しています。
朝鮮飯店のホームページで確認する限り、群馬県内では前橋市、高崎市に4店舗ずつ、伊勢崎市に3店舗、桐生・藤岡・富岡・安中の各市に1店舗ずつ、計16店舗を展開しています。近接する栃木県、埼玉県にも徐々に展開しており足栃木県足利市、埼玉県春日部市・越谷市に1店舗ずつ展開しており合計19店舗です。
群馬県内に限ると、展開する自治体の人口を合計すると715,797人に16店舗、つまり44,737人に1店舗です。人口10万人あたりの店舗数は2.4店舗です。19店舗中16店舗なので、群馬県の店舗数のシェアは84.2%です。それに対して代表的な焼肉全国チェーンの牛角は、展開する自治体の合計人口616,782人に対して7店舗を展開。これは88,112人に店舗で、人口10万人あたりの店舗数は1.1店舗です。【表1】

【表1】

企業名

商勢圏

人口

店舗数

群馬県の比率

牛角店舗数

朝鮮飯店

群馬県

715,797

16(2.4)

84.2%

7(1.1)

( )10万人あたり店舗数

【表2】では、群馬県内の自治体ごとの人口と2社(朝鮮飯店と牛角)の店舗数が比較されています。

【表2】『朝鮮飯店』と『牛角』の店舗数比較

自治体名

人口

朝鮮飯店

牛角

前橋市

166,518

4

1

高崎市

184,359

4

1

桐生市

58,347

1

0

伊勢崎市

105,693

3

1

太田市

111,404

1

0

沼田市

25,210

0

0

館林市

39,477

0

1

渋川市

40,642

0

1

藤岡市

33,627

1

0

富岡市

25,414

1

0

安中市

30,435

1

0

みどり市

25,770

0

1

北群馬郡

17,334

0

0

多野郡

1,772

0

0

甘楽郡

12,263

0

0

吾妻郡

29,841

0

0

利根郡

18,174

0

0

佐波郡

18,486

0

0

邑楽郡

54,323

0

1

この表から読み取れることは何でしょう?皆さんならどのようにコメントされますか?

この数字から読み取れることとしては、以下が考えらます。

  • 人口が多い前橋市、高崎市、伊勢崎市では、朝鮮飯店が全国チェーンの牛角の3-4倍の店舗を展開済みで、牛角は周辺の自治体へ入り込もうとしている様子がうかがえます。
  • 数字の上だけで考えると太田市、邑楽郡、吾妻郡には朝鮮飯店にもまだ出店余地があると言えます。同時に牛角にとっては新規出店の努力を傾けるべきエリアとも言えます。
ドミナント出店ケーススタディー『フライングガーデン』

次に、上場企業で特定の地理的市場に出店を集中している企業として、栃木県小山市に本社を置く『フライングガーデン』をとり上げます(フライングガーデン社については、「爆弾ハンバーグ フライングガーデン」のホームページをご覧ください)。

同社の沿革によると、発祥は群馬県で、同県に1984年8月に一号店が開店。その後、1986年4月に栃木県、1999年4月に茨城県、2000年4月に埼玉県、2004年6月に千葉県に出店先の都道府県を拡大したとあります。

下の表は同社の都道府県別の店舗数の推移を示しています。

千葉県以降は新たな都道府県への市場拡大を行っておらず、新規の出店も少なくとも最近の約7年間は行っておらず、会社四季報2015年夏号によれば不採算店舗を閉鎖しているとのことで、茨城県の2店舗と千葉県の1店舗が閉鎖されたものと思われます。

(株)フライングガーデン 2008年12月 2012年3月 2015年8月
店舗数 67 67 64
集中度 2225 2225 2276
出店済み都道府県数 5 5 5
北海道 0 0.0 0 0.0 0 0.0
青森 0 0.0 0 0.0 0 0.0
岩手 0 0.0 0 0.0 0 0.0
宮城 0 0.0 0 0.0 0 0.0
秋田 0 0.0 0 0.0 0 0.0
山形 0 0.0 0 0.0 0 0.0
福島 0 0.0 0 0.0 0 0.0
茨城 15 22.4 15 22.4 13 20.3
栃木 16 23.9 16 23.9 16 25.0
群馬 11 16.4 11 16.4 11 17.2
埼玉 19 28.4 19 28.4 19 29.7
千葉 6 9.0 6 9.0 5 7.8
東京 0 0.0 0 0.0 0 0.0
神奈川 0 0.0 0 0.0 0 0.0
新潟 0 0.0 0 0.0 0 0.0
富山 0 0.0 0 0.0 0 0.0
石川 0 0.0 0 0.0 0 0.0
福井 0 0.0 0 0.0 0 0.0
山梨 0 0.0 0 0.0 0 0.0
長野 0 0.0 0 0.0 0 0.0
岐阜 0 0.0 0 0.0 0 0.0
静岡 0 0.0 0 0.0 0 0.0
愛知 0 0.0 0 0.0 0 0.0
三重 0 0.0 0 0.0 0 0.0
滋賀 0 0.0 0 0.0 0 0.0
京都 0 0.0 0 0.0 0 0.0
大阪 0 0.0 0 0.0 0 0.0
兵庫 0 0.0 0 0.0 0 0.0
奈良 0 0.0 0 0.0 0 0.0
和歌山 0 0.0 0 0.0 0 0.0
鳥取 0 0.0 0 0.0 0 0.0
島根 0 0.0 0 0.0 0 0.0
岡山 0 0.0 0 0.0 0 0.0
広島 0 0.0 0 0.0 0 0.0
山口 0 0.0 0 0.0 0 0.0
徳島 0 0.0 0 0.0 0 0.0
香川 0 0.0 0 0.0 0 0.0
愛媛 0 0.0 0 0.0 0 0.0
高知 0 0.0 0 0.0 0 0.0
福岡 0 0.0 0 0.0 0 0.0
佐賀 0 0.0 0 0.0 0 0.0
長崎 0 0.0 0 0.0 0 0.0
熊本 0 0.0 0 0.0 0 0.0
大分 0 0.0 0 0.0 0 0.0
宮崎 0 0.0 0 0.0 0 0.0
鹿児島 0 0.0 0 0.0 0 0.0
沖縄 0 0.0 0 0.0 0 0.0
ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)で集中度を計算する

さて、チェーン企業のドミナントの度合いを客観的に表現できて、企業間で比較できるような指標は無いか?ということで、表に「集中度」という数字を含めました。

フライングガーデンはその「集中度」の数値を2012年から2015年にかけて51ポイント上昇させています。これは何を意味するか?

この数字は“ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)”というものを援用したものです。もともとは、ある産業で特定の企業に市場シェアがどれだけ集中しているかを表す指標で、その産業に属する企業の市場シェア(%)を二乗したものの和と定義されます。

例えばある産業に2社が参入しており、市場シェアがA社70%、B社30%の場合のHHIは、

70×70+30×30 = 4900 +900 = 5800

です。

ではHHIの最大値はいくつでしょう?最大値は1社独占の状態です。つまり100×100 = 10000です。

これを、チェーン企業が都道府県ごとに店舗数をどの程度集中させているかを測ることに用いています。

ある全ての店舗をある都道府県1つに集中した場合の集中度は10000です。よってこの集中度の数字は10000に近ければ近いほど、特定の都道府県への店舗数の集中度が高いことを表しています。

フライングガーデンはこの3年間で集中度を高めたということを意味します。

この数字を高いとみるべきか低いとみるべきかについては、他の企業の数字と比較するなどして判断するしかありません。

皆さんもご自分の会社の“集中度”を計算してみてください。