チェーン店の「エリア戦略」の作り方
5つのチェーン店エリア戦略類型とその特徴
多店舗化する企業では、ある地理的範囲に何店舗出店できるか、すべきかが様々な場面で議論されます。
タイトルにある「エリア」という言葉はよく用いられる言葉ですが、明確な定義があるわけではありません。よってここでは「チェーン店が複数の店舗でカバーしようとする特定の地理的な範囲」という意味で用います。ただ、その特定の地理的な範囲は、担当者の社内での地位や議論する相手によって異なります。日本全体や都道府県、市区町村という広い範囲での議論がなされることもあれば、局地的なマーケット(例えば○○駅周辺など)での議論がなされることもあります。
それぞれの地理的なエリアには、それぞれの状況や局面があります。よって“どのような施策を優先するべきか?”はエリアによって異なるのです。積極的に追加出店を行うべきエリアもあれば、既存店の業績が不振で追加出店よりも既存店対策を優先した方がよりエリアもあります。
【表1】は、各エリアが何を優先するべきかを考える際の助けになるものとして期待される、5つの戦略類型を示したものです。
【表2】は、粗削りなものですが、エリアの市場規模の大小と既存店の業績の好不調でマトリクスを作り、5つの戦略類型をセルに配置したものです。そして、それぞれの地理的エリアに各類型が一つ以上割り振られるという考え方に基づいています。
【表1】では、上に行けば行くほど既存店の業績が順調で、エリアとして“健康”な状態、下に行けば行くほど既存店の業績が芳しくなく、エリアとして“病気”の状態を示しています。
上に行けば行くほど新規出店の優先度が高くなります。市場規模が大きく、まだ出店余地があるエリアで、「既存店が“元気”であれば積極的に新規出店を進めるべし」ということです。
逆に、下に行けば行くほど既存店対策が優先され、新規出店の優先度は低くなります。市場規模が小さい上、既存店の業績が不振な場合、更には回復が見込めないような状況では、既存店対策や閉店、新規出店と閉店を同時期に実施するリロケーションを優先するべきです。要は、「既存店が病気ならその治療に専念し回復させよう」ということです。「もしも既存店業績の回復が見込めない場合は、潔く閉店やリロケーションを考えよう」ということです。
最後に、中間に位置し他の4つの類型のいずれにも当てはまらないのが現状維持です。「静かに現状を見守りましょう」ということです。
しかし、こうした各エリアに割り振られた戦略類型は、一度決めると変わらないという固定的なものではなく流動的なものです。
つまり、エリア内の人口変動(市場規模の変化)や、商業施設等の開発に伴う既存店舗の相対的な立地評価の変化、他のエリアでの自社の出店状況の変化などにより、優先されるべき事柄が変わった場合には、他の戦略類型に移行することが考えられます。
従って、各エリアの類型は定期的に見直される必要があります。各エリア内の環境変化の予兆があった場合や自社の出店状況の変化に伴い、他の4つのいずれかの類型にシフトすることがあり得るのです。
各エリアが健康か病気かを判断する方法
では、各エリアが健康か病気かを判断するのに必要なことは何でしょうか?
それは、健康な状態と病気の状態を定義すること、そして、二つの状態を区別するために用いることが可能な客観的な数値を把握することです。
【表1】はエリアの健康な状態と病気の状態を対比させたものです。
競合企業よりも店舗数が多くあり、継続的な出店がなされている場合、その企業は市場シェアが高く、成長しているという印象を消費者に与え、その結果、市場規模に対して十分な数の店舗をエリア内に配置できているような状態。これを、エリアが“健康な状態”とします。
逆に、競合企業よりも店舗数が少なく、継続的な出店がなされていない場合、その企業は市場シェアが低く、成長しているという印象を消費者に与えることができず、その結果、市場規模に対して十分な数の店舗をエリア内に配置できていないような状態。これをエリアが“病気の状態”とします。
を示しています。
店舗数シェアは、いわゆる市場占有率と同じ考え方により求まる数値です。そのエリア内の自社店舗数が、自社を含む同一業界に属する企業の店舗数の合計に占める割合です。高いほどエリアは健康な状態にあると判断します。
ブランドの活性化の度合いは、なかなか数値化が難しいのですが、「エリア・エイジ(Area age)」という概念を提案させていただきます。一店舗を出店したのちに長らく追加出店が無い場合と、追加出店を継続することで大小が異なる数値として考案したものです。
求め方は、エリア内の個々の店舗の年齢(age)を求め、それらを合計し、その値を店舗数で割るだけです。エリア内の店舗の平均年齢とでも言えば分かりやすいかもしれません。
あるエリアに5年前に一店舗開店後、追加出店が全くない場合、エリア・エイジは5年となります。
では、あるエリアに5年前に一店舗開店後、2年前に二店舗目を開店した場合のエリア・エイジは?(5+2)/2=3.5年です。低いほど健康な状態にあると判断します。
個々の店舗の店舗業績も同時に確認する必要があり、エリア・エイジと店舗業績、例えば売上の対前年比の相関関係を調べてみるのも面白いかもしれません(相関関係の見方、相関係数の求め方、会議等での説明方法に関しては後日改めてお話しさせていただきます)。
最後に市場規模に対する店舗数ですが、これは10万人(この数値は別の値に代えても構いません)あたりの自社の店舗数で把握します。個々のエリアごとに人口が異なるため、ある一定の人口数あたりの数字に修正した店舗数を用います。人口40万人のエリアに4店舗あれば、そのエリアの10万人当たり店舗数は、4×10万/40万=1店舗となります。
では、人口50万人のエリアに2店舗の場合は?2×10万人/50万人=0.4店舗です。これは少ないよりは多くあるべき数値ですが、多ければ多いほど良いというものではありません。個々のエリアの平均と比較し、それを下回っていれば出店余地があると考えるべき数値です。
御紹介した数値を組み合わせて活用し、皆さんの会社の出店済みエリアの状態を診断し、分類してみてください。
エリアの戦略プランに落とし込む方法
では、具体的に、どうやってエリアの戦略プランに落とし込めば良いのでしょうか。
新規出店には7つの根拠があります。新規に出店する店舗の出店の理由はいくつあるか、確認してください。
(1) 自社が出店しない訳にはいかない場所
- 東京圏、名古屋、大阪、福岡など主要都市
- 大型SC開発計画
- 新規、再開発計画 など
(2) 未出店エリア(エリア1号店)
(3) 「エリア内の既存店Age」の平均を全国平均の水準に保つため
- 出店履歴から機械的に配置する。特定のエリアの新規出店が長期間停まっている場合、新規出店の優先順位を上げるべきです。
(4) 地方都市で「10万人あたり店舗数」が全国平均に達していないため
- エリア間の差をなくす意味で出店が必要な場合があります。
(5) 競合の店舗数が自社の店舗数を上回るエリアへの出店
(6) ポテンシャルが大きく競合の出店を阻止しドミナントを形成する
(7) 既存店の効率が悪く改善の見込みの無い店舗のリロケーション
いかがでしたか?
では、具体的に、エリアの戦略プランに落とし込んでいきましょう。
これは、複数のエリアを管理する際に、共通の方法でエリア戦略立案を行うためのシートです。
- 目標設定:出店数、セールス&利益、ターゲット など
- 現状分析:マーケット(量・質・成長性)、競合環境、既存店履歴・業績
- 問題点&機会点:目標と現状のギャップ、エリアの課題の洗い出しと優先順位付け
を整理した上で、年度ごとの戦略案(積極出店、静観、既存店対策)を策定していきます。